春霞たなびきにけり

[詞書]延喜御時、歌めしけるにたてまつりける



春霞 たなびきにけり
久方の*1 月の桂も 花や*2咲くらむ*3


紀貫之後撰集・春上・一八)


春の霞がたなびく季節になったのだなあ。月に生えているという桂の木も、今頃、花を咲かせているのだろうか。
(秋に美しいともてはやされる月や桂だけれど、春には春の美しさがあるのだ)



桂の花が咲くのはちょうど今頃、3〜4月です。
美しい姿かたちをしているわけでもない、目立たない小さな花ですが、花を咲かせた桂の木を遠目に見ると、ほんのり濃いピンク色を纏っているように見えます。
一方、春霞でぼんやりとみえる月は朧月(おぼろづき)と言い、秋の月の美しさとはまた違った風情があります。

*1:ひさかたの〔枕詞〕:雨・月・雲・空・光などにかかる。

*2:や−らむ:係り結び〈疑問〉

*3:らむ〔助動〕:〜しているだろう(現在推量)