長からむ心も知らず

[詞書]百首歌たてまつりける時、恋のこころをよめる



長からむ*1 心も知らず 
黒髪の 乱れてけさは 物をこそ*2思へ


待賢門院堀河*3(千載集・恋三・八〇二)


この想いは末永く続くだろう、と仰る貴方の気持ちも、信じてよいのかわからないのです。
寝乱れた黒髪と同じように私の心も乱れて、今朝は物思いにふけるばかりです。
(貴方の温もりが消えてしまった寝床は、私の心を一層不安にさせるのです)





 この歌の作者である待賢門院堀河は、鳥羽上皇の皇后・璋子に仕える女官です。
 今回の大河ドラマにも、印象的に登場しています。

 ドラマ内でこの歌は、歌合の場で佐藤義清に指摘をされたことになっていました。
 けれどそれは、あくまでもフィクションです。
 この歌は詞書にもあるように、百首歌(久安百首)のために詠まれたものです。
 久安百首というのは、崇徳院の命により、当代きっての選ばれし歌人たちが百首の歌を詠み、院に納めたものです。
 久安百首の完成は1150年。第76代近衛天皇の御代になります。
 ドラマの舞台はまだ、第75代崇徳天皇の御代です。
 しかも堀河は、1142年に鳥羽上皇、待賢門院が落飾したのに共をして尼となっています。
 そして、この歌に指摘をした佐藤義清は、1140年に出家しています。
 ですので、ドラマでのあのような場面は、起こりうるはずがないのです。

 しかし、堀河と西行(佐藤義清)が和歌を通して親交があったことは確かです。
 自選したという家集『待賢門院堀河集』にはこの歌が選出されていない、という事実もありますので、このあたりをドラマに繋げようとしてあのシーンができたのかもしれません。
 

*1:“長くあるらむ”を縮めた形。

*2:こそ−思へ:係り結び〈強意〉

*3:たいけんもんいんのほりかは