かつ見ればうとくもあるかな
[詞書]月おもしろしとて凡河内躬恒*1がまうできたりけるによめる
かつ*2見れど うとく*3もあるかな
月影の いたらぬ里も あらじと思へば
今宵の月を美しいと見る一方、薄情にも感じられてしまう。この美しい月影が届かない里はないのだと思うと。
(気の合う友と過ごすこの時、私たちのためだけに月が照ってくれればよいのに)
紀貫之と凡河内躬恒はどちらも古今集の撰者を務めた、この時代を代表する歌人でした。
もちろん両者とも、百人一首に歌が採られています。
月の光は平等に降り注ぐ、それが少し疎ましい。
この美しい光景を自分たちだけが見られたらいいのに……という、人間のちょっとわがままな、だけど誰もが一度は思ったことがあるような気持ちを歌っています。
『かつ見れど うとくもあるかな』の訳は少しややこしいのですが、詞書にある『月おもしろし』という躬恒の言葉も踏まえて、
(月)見れど(おもしろく)かつ うとくもあるかな
という語順で考えるとわかりやすいかなと思います。