おほかたは月をも愛でじ

[詞書]題しらず



おほかた*1は 月をも愛で*2
これぞこの つもれば人の 老いとなるもの


在原業平古今集・雑上・八七九)


そもそも私は月をも賛美しないだろう。月が昇って沈む、欠けては満ちる、その繰り返しが積もり積もれば、人の老いとなるのだから。
(人はこぞって月の美しさを賞賛するが、私はかえって無情であると感じるのだ)



 「雪月花」という言葉があるように、月は美しい風景の代表格でもあります。
 けれどこの歌では、その月を皆と同じく賞賛してはやらないのだ、というちょっと捻くれたような見方をしています。

 わたしは、“美しいものしか持ちえぬ冷たい無情”というものが存在すると思っています。
 月も多分に漏れず、それを持っていると思います。
 
 何処となく人生を達観したような雰囲気は、先日紹介した、同じく業平詠の「月やあらぬ〜」の歌にも通ずるようにも感じます。

*1:大方〔副〕:(1)一般に、およそ(2)そもそも、概して(話を切り出す時に接続詞のように用いる)

*2:めづ〔動・ダ行下二段〕:可愛がる、ほめる・賛美する、好む