月夜よし夜よしと人に

[詞書]題しらず



月夜よし 夜よしと人に 告げやらば
来てふ*1に似たり 待たずしも*2あらず


よみ人しらず(古今集・恋四・六九二)


月が綺麗です、素敵な夜ですよと貴方に知らせたとすれば、来て下さいと言っているのと同じことです。決して待っていないわけではないのです。
(貴方なら気づかない訳もないでしょうに……一体何処へ行っていらっしゃったのでしょうね?)





 平安時代、貴族の恋愛は、男性が女性のもとに通うスタイルが一般的でした。
 女性は、男性が訪ねてきてくれるのを待つしかなかったのです。
 この歌は女性側の歌で、訪ねてきてくれなかった男性に対して翌日に送った歌、というふうに見ることができます。
 直接「来て下さい」とは書きづらくて遠まわしに表現した、というのは現代でも恋愛の駆け引きとして使われそうなシチュエーションです。
 いろんな情景を想像できるかと思うのですが、関係が疎遠になりつつある恋人同士を想定し、わたしはカッコ内のような補足をしてみました。

*1:てふ:「といふ」の約まった形。

*2:しも〔副助〕:(打消の語を伴って)かならずしも〜ではない。