今来むといひしばかりに

[詞書]題しらず



今来むと いひしばかりに
長月の ありあけの月を 待ちいでつるかな


素性*1古今集・恋四・六九一)


今からお訪ねしますと貴方が仰ったばかりに、私は長月の夜長をやり過ごし、とうとう有明の月が見える頃まで貴方を待ち続けてしまいました。
(来て下さるつもりがないのなら期待させるようなことは言わないで下さい。独り私が悲しい想いをするだけなのですから)


★月の異称★

 一月…睦月(むつき)、孟春(もうしゅん)、初春(しょしゅん、はつはる)
 二月…如月(きさらぎ)、仲春(ちゅうしゅん)
 三月…弥生(やよい)、季春(きしゅん)、晩春(ばんしゅん)
 四月…卯月(うづき)、孟夏(もうか)、初夏(しょか・はつなつ)
 五月…皐月(さつき)、仲夏(ちゅうか)
 六月…水無月(みなづき)、季夏(きか)、晩夏(ばんか)
 七月…文月(ふみづき・ふづき)、孟秋(もうしゅう)、初秋(しょしゅう・はつあき)
 八月…葉月(はづき)、仲秋(ちゅうしゅう)
 九月…長月(ながつき)、季秋(きしゅう)、晩秋(ばんしゅう)
 十月…神無月(かんなづき)※出雲大社に日本中の神々が集まるため、出雲国では神在月(かみありづき)と呼ぶ※ 、孟冬(もうとう)、初冬(しょとう)
 十一月…霜月(しもつき)、仲冬(ちゅうとう)
 十二月…師走(しわす)、季冬(きとう)、晩冬(ばんとう) 




百人一首」に採られている「有明の月」の歌は、すでに四首中二首紹介しています。
 この歌で三首めになります。
古今和歌集』中の「有明の月」の歌は全部で三首、つまり三首すべてが「百人一首」に採られていることになります。

 訪れてくれない恋人を待ち続けていたら、有明の月が出る夜明け頃まで待ってしまいました……という、「待ちぼうけ」の歌。これもまた、「有明の月」ならではの題材で、風情があると思います。

 ちなみに、詠者の素性はお坊さんです。なのでこの歌は、女性の立場に立って創作として詠まれたものになります。

*1:そせい