朝ぼらけ有明の月と

[詞書]やまとの国*1にまかれりける時に、雪のふりけるを見て詠める


朝ぼらけ*2 ありあけの月と 見るまでに
吉野*3の里に 降れる*4しらゆき


坂上是則*5古今集・冬・三三二)


夜明け頃、空に残った有明の月の光が明るく射しているのかと見紛うほどに、吉野の里に降り積もった白雪であったよ。
(その眩さに思わず目を覚ましてしまったが、その代わり、この美しい景色を見ることができた。)




 百人一首に採られている「有明の月」の歌は四首あります。
 この歌は、壬生忠岑有明の〜」に続いて二首めの紹介になります。
 ただこの歌においては、「有明の月」そのものが詠まれているわけではありません。
 吉野の里に降り積もった雪の明るさを「有明の月」の光と間違えてしまった、という、比喩の対象として「有明の月」が詠まれています。

 今年の元旦には、このような雪明りを目にした方も多かったのではないでしょうか。

*1:大和国:今の奈良県

*2:朝ぼらけ〔名〕:朝、ほのぼのと明るくなってくる頃。夜明け方。

*3:吉野:奈良県南部の地名。桜の名所として名高い。

*4:る:存続の意味を持つ助動詞「り」の連体形。参照:助動詞「り」

*5:さかのうえのこれのり