しのぶれど恋しき時は

[詞書]題しらず


しのぶれ*1ど 恋しき時は
あしひきの*2 山より月の 出でてこそ*3くれ


紀貫之古今集・恋三・六三三)


逢いたい気持ちを抑えていても、貴女を恋しく思った時は、山から月が出てくるように貴女のもとを訪ねてしまうのです。
(またすぐにお訪ねしますよ。だからきっと、そのときも優しく迎え入れてくださいね。)



★和歌の修辞★

枕詞(まくらことば):特定の語について、語調を整えたり情緒を伴わせる言葉。

 ※特に意味を持たないので、現代語訳をするときは枕詞の意味は考えずに訳す。




 “山から月が出てくる”こと――それは、不変の自然の理です。
 “山から月が出てくるように貴女のもとを訪ねてしまう”ということは、自然の理に匹敵するまでに貴女を想う心は強いのだ、と言いたかったのかもしれないなぁと感じました。

 わたしの現代語訳はだいぶ意訳しておりますので、ご了承の上、ご鑑賞ください。
 現代語訳の上段はなるべく歌の言葉に忠実に、下段のカッコ内は個人的な解釈を含む意訳・付け足しとなっています。

*1:忍ぶ〈動・バ行上二段〉:(1)耐える、我慢する (2)秘密にする

*2:足引きの〈枕詞〉:「山」「峰(を)」などにかかる。

*3:こそ‐くれ(カ変動詞「来」の已然形):係り結び〈強意〉