我が心なぐさめかねつ
[詞書]題しらず
我が心 なぐさめかねつ
更級*1や をばすて山*2に 照る月を見て
よみ人しらず(古今集・雑上・八七八)
私は自らの心を慰めることができずにいます。更級の姨捨山に照る月を眺めていると。
(美しく照る月は私の悪しき心を明らかにして、私を苦しめるのです)
★完了の助動詞「つ」・「ぬ」★
意味:(1)完了(〜テシマウ、〜テシマッタ)
(2)確述(キット〜、タシカニ〜)※助動詞「む」「べし」を伴うことが多い
※「つ」と「ぬ」の違い
「つ」…他動詞(その動詞の表す動作が他に働きかけるもの。目的語をとる動詞。「読む」「見る」など)について、その行為をする者の意志的な完了を表すことが多い。
「ぬ」…自動詞(その動詞の表す動作がそれ自身の働きとなっているもの。目的語をとらない動詞。「成る」「降る」など)について、無意識的な動作や自然に変わっていくようすを表すことが多い。
この歌は、『大和物語』という歌物語の一五六段「姥捨」に掲載されています。
姥捨をテーマにした言い伝えや昔話はいろいろありますね。
『今昔物語』にも、天竺の話として姨捨をテーマにしたお話があります。
わたしはこれを小学生の頃何かで読んで憶えており、高校生になってから古文や漢文の模擬試験でちょうどこの話が出題されて高得点を記録したというエピソードがあったりします。
月の名所として名高い更級の地で見る月の美しさはなお一層、年老いた母親を棄てた男の心に鋭く刺さったのでしょう。