ふたつなき物と思ひしを

[詞書]池に月の見えけるをよめる



ふたつなき 物と思ひしを
水底の 山の端ならで*1 いづる月かげ


紀貫之古今集・雑上・八八一)


この世にふたつとないものだと思っていたのに、水底から、山の端ではないところなのに月が出てきている。
(こんなところにも、月の美しい風景があったとは!)



★「山の端」と「山際」★

山の端(やまのは)… 山の、空に接する境界のあたり。
山際(やまぎは)… 空の、山に接する境界のあたり。

 「山際」は、教科書でもよく取り上げられる『枕草子』でお馴染みです。
 「山の端」は月を詠んだ歌ではよく出てくる単語です。



 字余りが好きです。
 この歌では、二句めが字余りになっています。
 声に出して読んだときに、何だか余韻が残る感じがするのです。

 前回、「月影」という単語は「月の光」という意味で取られることが多い、と紹介いたしましたが、この歌での「月影」は、「月の姿」という意味かと思われます。

*1:で〔接助〕:打消の意味を含む接続助詞。〜なくて。〜ないで。〜ずに。