小夜ふけてあまのと渡る
[詞書]題しらず
小夜ふけて あまのと*1渡る 月影*2に
あかず*3も君を あひ見*4つるかな
よみ人しらず(古今集・恋三・六四八)
夜が更けて、天上の道を渡ってゆく月の光のもと、時を忘れていつまでも貴女と契りを結んだことです。
(美しい月の光に包まれた、まるで夢のような時間でした。今も貴女が恋しくて仕方がありません。)
「影」という言葉は、現代では太陽や月の光によって地面に伸びる黒い影を指しますが、古語の「影」は「光そのもの」を指すことが多いです。
「月影」は「月の光」、「日影」は「太陽の光」という意味で使われていることが大半ですので、頭に置いておくと便利です。
月が詠まれた恋の歌は、これまで紹介してきた『古今集』の歌を見てみると、別れの歌や冷たい女性を恨む歌の割合が高いです。
しかしこの歌は、想いを通わせた“幸福感”を表現した歌になっています。