月夜にはそれとも見えず

[詞書]月夜に梅花を折りてと人のいひければ、折るとてよめる



月夜には それとも見えず 梅の花
香をたづねてぞ*1 しるべかりける


凡河内躬恒古今集・春上・四〇)


月夜には、梅の花は月の光にまぎれてしまっています。でも、その芳しき香りをたどれば、見つけられるんですよ。
(ですからほら、こうしてあなたの為に、梅の枝を折ってさし上げることができたのです)




更新をお休みさせていただいておりましたが、本日よりまた、少しずつ再開いたします。

古今集で唯一の、春の月の歌です。
白梅が月の光にまぎれて見えなくなってしまう、というのは些か大袈裟かもしれませんが、機知に富んだ素敵な表現だと思います。
躬恒はわたしの特に好きな歌人のひとりで、独特の視点や表現が多いです。

*1:ぞ−ける:係り結び〈強意〉