逢ひに逢ひて物思ふころの


逢ひに逢ひて 物思ふ*1ころの わが袖に
やどる月さへ ぬるゝ顔なる


伊勢(古今集・恋五・七五六)


何度も貴方とお逢いしているのに、相変わらず恋わずらって涙している私の濡れた袖に宿る月までもが、涙で濡れた顔をしています。
(私の思いがこれほどまでに大きいものだと、貴方に知ってほしいものです)




「宿る月」という言葉、そしてシチュエーション。風情があってとても好きです。
「宿る」には光や影が映る、という意味があり、通常は水面や露に月の光が映って見えることを「月が宿る」などと言います。
 この歌の場合は、涙で濡れそぼって水分を含んだ袖に月が映っている――つまり、それほどまでに涙を流したのだ、という意味を込めた誇張表現なのです。

*1:物思ふ〈動・ハ行四段〉:思い悩む。思いにふける。