月夜には来ぬ人待たる


月夜には 来ぬ人待たる*1
かき曇り 雨も降らなむ*2 わび*3つつも寝む


よみ人しらず(古今集・恋五・七七五)


月夜だと、来てくださらないと知りながらもつい貴方を待ってしまいます。空が曇って月を隠し、雨も降ってほしい。そうすれば、淋しく思いながらもあきらめて眠りにつくでしょうに。
(貴方は月夜でも雨夜でも、他の女性のもとへ通われているのかもしれませんが……。)



★「なむ」の見分け★

(1)「なむ」…完了の助動詞「ぬ」の未然形 + 推量の助動詞「む」の終止形・連体形
  意味:(1)推量(〜テシマウダロウ)
     (2)意志(〜シテシマオウ、キット〜シヨウ)
     (3)当然・適当(〜スルノガヨイ) ・・・など
  見分け方:動詞・助動詞の連用形に接続する。

(2)終助詞「なむ」
  意味:他に対する願望。(〜テホシイ)
  見分け方:動詞・助動詞の未然形に接続する。

(3)係助詞「なむ」
  意味:強意。
  見分け方:[1]文中に「なむ」があり、その文末が用言の連体形で結ばれている(=係り結びの法則)
        [2]文末に「なむ」があり、接続が連用形・未然形ではない



美しい月は、ついぼんやりと眺めてしまう魅力を持っています。
月を眺めながら物思いをしていると、来てくれないとはわかっていてもつい恋人を待ってしまう……そんな複雑な恋心が詠まれた歌です。
月という存在が、この歌に詠まれている“孤独”をいっそう引き立てているように感じます。

*1:る〔助動〕:自発の意味を持つ。(自然ト〜サレル)

*2:なむ〔終助〕:他に対する願望の意味を持つ。(〜テホシイ)

*3:侘ぶ〔動・バ行上二段〕:(1)思い悩む。(2)淋しく思う。(3)困る。(4)落ちぶれる。