天の原ふりさけ見れば

[詞書]もろこしにて月を見てよみける


天の原 ふりさけ見れば 春日なる*1
三笠の山*2に 出でし月かも*3


安倍仲麻呂古今集・羈旅・四〇六)
百人一首 七番

大空を振り仰ぐと、美しく風情のある月が出ていた。あの月は、若い頃に幾度となく眺めた、春日にある三笠山からのぼった月と同じなのだなあ。
(ああ、故郷が懐かしい。ふたたび日本の地で、同じ月を眺めたいものだ。)




一番初めに紹介した「有明のつれなく見えし〜」と同じくらい、思い入れの深い歌です。
百人一首で一番初めに憶えた札は、これだったと記憶しています。
技巧に凝っていないので意味がわかりやすく、情景が思い浮かべられ、なおかつ好きな月が詠い込まれていたからかなと思います。
作者である安倍仲麻呂が、結局は日本に帰ることができず、三笠山からのぼる月を見ることができなかったという事実も物悲しく、印象深かったのかもしれません。

*1:なり〔助動〕:存在の意味を持つ。〈〜ニアル〉

*2:三笠山御蓋山〔歌枕〕:奈良県、春日の地にある山。春日大社を祀っている。

*3:かも〔終助〕:詠嘆・感動の意味を持つ。上代に多く使われ、後に「かな」に取って代わられた。