秋くれば月の桂の
[詞書]かつらのみや
秋くれば 月の桂の 実やは*1生る*2
ひかりを花と 散らすばかりを
秋が来ると、月の桂に実は生るのだろうか。光を花のごとく、散らしているだけのように見えるけれど。
(あまりに惜しみなく光の花弁を散らすものだから、翌年の秋も同じく美しい月を眺められるのかと心配してしまうのだ)
★和歌の修辞★
物名(もののな):一首の歌の中に物の名称を読み込む技法。濁点のぞいて考えてよい。
今回紹介した歌の場合、[詞書]に書かれている「かつらのみや」という物の名が歌の中に詠み込まれています。
月の桂の 実やは生る → つきのかつらの みやはなる
和歌の言葉遊びといえば「折句」が有名かと思います。
(各句の頭を拾うと意味のある単語になる。『伊勢物語』に乗っている「から衣 きつつなれにし 妻しあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」=かきつばた がよく知られています)
今回紹介した「物名」も、そのような言葉遊びの一種です。
本来の意味とは違った使い方で詠み込まれることがほとんどなので、どのような単語に置き換えられているのかというのが面白く、歌人の技量におどろかされるところでもあります。