有明のつれなく見えし

有明*1の つれなく*2見えし 別れより
暁ばかり 憂き*3ものはなし


壬生忠岑古今集・恋三・六二五)

百人一首 三十番


有明の月が、まるで貴女のようにつれなく見えたあの別れから、私にとって暁の時間ほどつらいものはないのです。
(月を見るたび貴女を思い出してしまう――貴女への想いがまだ断ち切れずにいます)



和歌が好き、月が好き。
その原点とも言える、わたしがもっとも好きな歌です。

有明の月」とは、夜が明けても空に残っている月を言います。
満月から欠けていく月――下弦の月は、月の出がだんだん遅くなっていくので、夜が明けてからも空にとどまっています。
平安時代の貴族の男性が、朝方女性の家から帰る道すがらに眺めたであろう有明の月。
その情景に限りない浪漫を感じます。

*1:有明〔名〕:月がまだ空にあるままで夜が明けようとするころ。また、夜が明けてもまだ空に残っている月。

*2:つれなし〔形〕:(1)無関係だ。 (2)冷淡だ。

*3:憂し〔形〕:つらい。